2008/09/27

飛廉は花の名にも


このところ中国美術関係の図録や書物をパラパラとめくる日が続いている。その度に気になっていたのが『中国★美の十字路展』図録に載っているこの図像、というよりもこの動物の名前だった。  

飛廉文銀盤 銀に鍍金 唐(8世紀初期)  陝西省西安市何家村出土 陝西歴史博物館蔵
同展図録は、飛廉とは、中国の神話伝説に登場する獣頭鳥身の神獣であり、ここでは翼を広げて天空を舞う一角獣の姿によって表現されているという。他に飛廉の図を見たことがないのだが、頭部と角が
えっ、これが麒麟?であげた28「鍍金麒麟」に似ている。「ヒレン」 という名の付く花にクロトウヒレンがあり、夏高山に登るとよく見かけるキク科の花である。『日本の高山植物』によると漢字では「黒唐飛廉」と書くらしいのだが、なぜそのような名がついたのかは説明にない。  
そこで検索してみると、「塔飛廉」という字をあてているものがあった。「きょうの青葉山」というブログにあるセンダイトウヒレンは、仙台に生え、「塔」のような姿で、「飛廉(中国の想像上の鳥/頭は雀に似るが角があり、身は鹿の様で豹紋があり、尾は蛇に似る)」に似た花の意味だと言うのですが、この可憐な花からそれを想像するのはとても難しいことです。「仙台」の名が付く、数少ない植物の一つですから、尚更もぞこくなるんですよね・・・というが、クロトウヒレンから塔を想像することは難しい。花を見ると小さなアザミのようだが葉の形が全然違う。アザミ属とトウヒレン属に分かれているのが頷ける。 
私がこの花を気に入っている理由に、えっ?と目が止まるような蕾の色がある。黒、あるいは黒に近い蕾から、薄いピンクの花が咲くという意外性を買っている。ひょっとすると、この蕾のただならぬ色と形から飛廉を思い浮かべて付けられたのだろうか。始皇帝と彩色兵馬俑展で戟を見たのハクサンタイゲキといい、今回のクロトウヒレンといい、わざわざ中国の、しかも花の名に似つかわしいとは思えない名前をつけたものだ。

※参考文献
「中国 美の十字路展」図録(2005年 大広)

「山渓カラー名鑑 日本の高山植物」(1988年 山と渓谷社)