2008/08/30

アイゼンとビール


白馬の大雪渓を登るのに、JR白馬駅前のある店でアイゼンを借りたが、写真を撮るのを忘れていた。それでウチにあるアイゼンの写真を載せることにした。どちらも4本爪の簡易アイゼンだが、借りたものは左側の方に似ている。もっと頑丈で重かった。 
山男と結婚したためにいやいや山に登るようになって20年以上になるが、アイゼンをつけたことはない。アイゼンが要るような時期に山に行かないからだ。ただ、アイゼンをリュックに入れて登ったことはある。初夏の山はまだ雪が残っていることがあるので、念のために持って行った。というより、へろへろ登山者だった私には重いので、まだ今山男だった夫のリュックに入れた。 
それは87年6月6日のことだった。中房温泉から燕岳を目指したが、合戦尾根あたりになると、私は5歩進んだら息が切れる繰り返しになってしまい、いつまでたっても燕山荘につかなかった。軽い高山病だったかも知れない。 
燕山荘から燕岳頂上まで往復し、燕山荘の喫茶室でコーヒーを飲んだら午後の3時になってしまった。夏山なら雷が怖いのでそのまま燕山荘泊まりになるところだが、抜けるような晴天で雷の心配はない。コーヒーを飲んで元気を回復したので、大天荘へ向け出発した。この縦走路は、あまり起伏がなく、雪の残っているところも多く、そんなところは雪の上を歩くと楽だった。晴天で雪もゆるんでいたため、アイゼンは必要なかった。 そして何より槍ヶ岳を眺めながらの歩きは素晴らしい。山歩きと言うよりもハイキングといったところだった。午前中の登りの大変さを補って余りあるものだった。しかし、楽なコースと言っても時間がかかることに変わりはない。歩いても歩いても大天井岳にはたどり着けず、太陽はどんどん傾いていった。その上遠くから見えた斜めの道は、実際に通ってみると柔らかい雪の道で、一歩一歩踏みしめながらの大変な登りとなった。 ようやく大天荘(だいてんそう)のある大天井(おてんしょう)岳頂上に着いたのは7時頃だったと思う。日が長い時期だったのでできることだ。その坂を登り切ったところで初めて雷鳥を見たのは忘れられない思い出だ。大天荘に入り、雪が多くて大変だったと言うと「それは夏道で、今はまだ別の道を通ることになっている」と言って、他の人が同じ道を通らないよう1人がロープを持って出かけていった。 そして5時が普通の山小屋の夕食だが、こんなに遅く着いても作ってくれた。いろんな料理がたくさん盛り付けてあった。しかし、疲れ切って全部を食べきることができなかった。 
さて、布団に戻った山男はリュックに忍ばせていたビールを取り出した。ところがそのビール缶は、念のために持ってきたアイゼンの刃が当たって穴が開いて、少なからずリュックの中にビールがこぼれていた。そんなビールはガスも抜けて美味しくないだろうと思ったが、何とこの山男はその穴からビールを飲み出したのだった。 
帰宅後、リュックの内側を洗ったが、ビールの臭いを消すのは大変だったように記憶している。元々ボロボロだったそのリュックは、内側のシールなどがさらに剥がれてしまった。 

白馬の大雪渓を登る