白馬尻から大雪渓が始まるのだと思っていた。それで予定としては9時に白馬尻に到着、アイゼンを付けるのも含めて20分の休憩としていたが、実際はケルンのあるところまで歩き、そこでアイゼンを付けるのだった。
やっとそのケルンに着いたら9時42分、もう遅れだした。アイゼンは持っているが、JR白馬駅前で借りることにして持ってこなかった。白馬岳山頂近くにある白馬山荘か、稜線の分岐付近にある村営頂上宿舎で返却することができるので、縦走の場合は借りた方が荷物が軽くて済むのだ。アイゼンを付けてやっと大雪渓へ、9時51分。雪渓の上は、ベンガラが撒いてあるところを通ることになっている。踏み跡が集中しているので、ベンガラの跡はくぼんでいる。
ところが歩き始めてすぐに、昔山男の紐がほどけそうになり、またやり直し。もうはるか向こうに列をなして歩いている人たちが気になる。これがケルン、プレートには「白馬山頂(4km)雪渓末端(3km)猿倉」とあった。雪渓の末端であることを示すケルンだったのだ。9時56分、やっとアイゼンの紐を結び直し、雪渓を歩くことができた。雪渓を歩くのは楽だった。踏み跡の通りに足を運べば良いし、踏んだ時に衝撃が返ってこないので足が疲れない。落石に注意して歩けば問題ない。アイゼンはというと、踏み跡に脚を置く時はほとんど付けていることがわからない。踏み跡のない斜面を登る時に土踏まずを押しつけるようにすると滑らずに進むことができる。凍っていないので歩きやすい。
猿倉で入山届けを書いている時、係の人が「大雪渓では落石があるので、休憩する時も上を向いているように。両側から落ちてくる」と言っていた。その上に、雪渓に落ちた石が再度滑り落ちる場合は音がしないそうだ。落石が怖い。
石は予想以上に雪の上にあった。ベンガラの道の上にも石は落ちていた。これらは今年の落石だろう。
それまでの石はそれほど大きくなかったが、落石というよりは落岩と呼んでもいいくらい大きな石もあった、10時5分。 斜度のある雪渓を踏み跡に従って歩く、あるいは登るのは、階段を上っているようなものだ。雪渓の上は冷たい風が吹いてきて、他が晴れていてもガスがかかることがよくあるという。
その通り冷たい風が吹いた時は涼しいが、冷たい風と暖かい風が交互にやってくる。多分太陽に熱せられた岩を吹き下りた風が暖かいのだろう。ガスも晴れたかと思うと一瞬で視界がなくなるほどかかったりする。
後ろを振り返ると、意外と高度を稼いでいるのがわかる、10時16分。
アイゼンの思い出